MVPのログイン機能は、多くの場合、自前で作らずにAuth0やFirebase Authenticationのような外部の認証サービスを使うのが合理的です。結論から言えば、パスワードの安全な保管、メールアドレスの確認、パスワードの再設定、SNSアカウントでのログイン、不正なログインへの対策といった、どのサービスにも必要で、しかも間違えると大きな問題になる部分を任せられるからです。MVPの限られた時間は、自社サービスならではの機能に使うべきです。
ただし、外部の認証サービスを使うことにも注意点があります。利用者が増えたときの費用、サービス固有の仕組みへの依存、そして将来別の仕組みに移るときのデータ移行の難しさです。最初の選び方と作り方を少し工夫しておくだけで、こうした将来の負担は大きく変わります。
この記事は、新規事業やSaaS、会員制サービスのMVPを作ろうとしている事業責任者・新規事業担当者、そして技術選定に関わる方に向けたものです。外部認証サービスを使う利点と注意点、比較の観点、MVPで実装する範囲、将来の移行に備えた設計を、判断基準とチェックリストの形でまとめます。
なぜMVPのログインは外部サービスに任せるのか
ログイン機能は、画面だけを見ると単純に見えます。メールアドレスとパスワードを入力して、正しければ中に入れる。しかし、実際に安全なログイン機能を作ろうとすると、次のような多くの要素が必要になります。
- パスワードを元に戻せない形で安全に保管する仕組み
- 登録時のメールアドレスが本人のものかを確認する仕組み
- パスワードを忘れた利用者のための再設定の仕組み
- 同じアカウントに何度もログインを試す攻撃への対策
- ログインした状態を安全に保つ仕組みと、その有効期限の管理
- SNSアカウントや、会社のアカウントでのログイン
- 二段階認証などの追加の確認
これらを自前で作ると、それだけでかなりの開発時間がかかります。しかも、どこか一つでも間違えると、利用者の情報が漏れるなど、事業に深刻な影響を与えかねません。外部の認証サービスは、こうした機能を専門に提供しており、継続的に安全対策も更新されています。
MVPの目的は、顧客が本当に価値を感じるかを早く確かめることです。ログイン機能は必要ですが、ここで差がつくことはほとんどありません。だからこそ、実績のある外部サービスに任せ、限られた時間を検証したい機能に使うのが合理的です。
外部認証サービスの種類と比較の観点
外部の認証サービスにはいくつかの種類があり、それぞれ得意分野が異なります。ここでは代表的な例として名前を挙げますが、機能や料金、提供条件は変わることがあるため、最新の情報は各サービスの公式情報で確認してください。
| 種類 | 例 | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 認証に特化したサービス | Auth0、Clerk など | 多様なログイン方法、企業向けの機能が豊富 | 法人向けSaaS、将来の企業向け対応を見込む場合 |
| 開発基盤の一部としての認証 | Firebase Authentication、Supabase Auth など | データベースなど他の機能と一体で使いやすい | 個人向けサービス、少人数で素早く作る場合 |
| クラウド事業者の認証サービス | Amazon Cognito など | 同じクラウドの他の機能と連携しやすい | すでにそのクラウドを使っている場合 |
| フレームワークの認証機能 | 各フレームワークの認証ライブラリ | 自社のデータベースで管理でき、依存が少ない | 開発者が仕組みに慣れていて、要件が単純な場合 |
どれを選ぶかは、次の観点で比較します。
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| ログイン方法 | メールとパスワード、メールのリンク、SNSアカウント、会社のアカウントなど、必要な方法に対応しているか |
| 将来の法人対応 | 会社ごとのアカウント管理や、会社のID基盤とつなぐSSOに対応できるか |
| 料金の構造 | 利用者数や月間の利用者数に応じてどう費用が変わるか、上位の機能が有料プランに限られていないか |
| 開発のしやすさ | 使う言語やフレームワークに合った部品や説明書がそろっているか |
| データの持ち出し | 利用者のデータを書き出せるか、パスワードの情報を移行できるか |
| データの保管場所 | 利用者の情報がどの地域に保管されるか、自社の方針や顧客の要件に合うか |
| 画面の調整 | ログイン画面を自社のサービスに合わせて調整できるか |
特に重要なのが、「将来の法人対応」と「データの持ち出し」です。法人向けのサービスでは、顧客企業から「自社のアカウントでログインしたい」と求められることがあります。最初に選んだ認証サービスがその要件に対応していないと、後で乗り換えが必要になります。
MVPで実装するログイン機能の範囲
外部の認証サービスを使う場合でも、MVPで何を用意するかは絞り込みます。次のように段階で考えると判断しやすくなります。
MVPで用意するもの
- 新規登録とログイン(メールアドレスでの登録、またはSNSアカウントでのログインのどちらか、もしくは両方)
- メールアドレスの確認
- パスワードの再設定(パスワードを使う場合)
- ログアウト
- ログインしている利用者だけが見られるページの保護
- 自社のデータベースと、認証サービス上の利用者の紐づけ
後回しにしてよいもの
- 二段階認証(扱う情報の重要度によってはMVPでも必要)
- 複数のログイン方法の統合(同じ人がメールとSNSの両方で登録した場合の名寄せ)
- 会社のID基盤とつなぐSSO
- 細かい権限の設定や、組織単位の管理
- ログイン履歴の画面
二段階認証は、扱う情報によって判断が変わります。お金や個人の機微な情報を扱うサービスでは、MVPでも用意すべきです。どこまで必要かは、扱う情報の重要度と、利用者の手間のバランスで決めます。
ログイン方法の選び方については、会員ログイン機能の実装でパスワード管理やSNSログインの注意点を詳しく解説しています。
将来の移行に備えた設計
外部の認証サービスを使ううえで一番気をつけたいのが、将来、別の仕組みに移る可能性です。料金が合わなくなった、必要な機能がない、会社の方針で別の基盤を使うことになった、といった理由で、乗り換えが必要になることがあります。MVPの段階で次の点を意識しておくと、その負担を大きく減らせます。
自社のデータベースに利用者の情報を持つ
認証サービスには「ログインに必要な情報」だけを任せ、利用者の名前、所属、プラン、設定などのサービス固有の情報は、自社のデータベースに持つようにします。自社のデータベースの利用者には自社独自の番号を振り、認証サービス側の番号は「紐づけのための情報」として別に保存します。
こうしておけば、認証サービスを乗り換えるときも、紐づけの情報を書き換えるだけで、サービスのデータはそのまま使えます。逆に、認証サービス側の番号をサービス全体の利用者番号として使ってしまうと、乗り換え時にすべてのデータを書き換える必要が出てきます。
認証サービスとのやりとりを一か所にまとめる
ログイン状態の確認や、利用者の情報の取得といった認証サービスとのやりとりを、プログラムの中で一か所にまとめておきます。画面ごとに認証サービスの機能を直接呼び出す作りにすると、乗り換え時に多くの箇所を直さなければなりません。
標準的な仕組みに沿ったサービスを選ぶ
OAuthやOpenID Connectといった標準的な仕組みに沿った認証サービスを選び、その標準の範囲で使うようにすると、別のサービスに移るときの互換性が保ちやすくなります。サービス固有の便利な機能を多用するほど、移行は難しくなります。
パスワードの移行の可否を確認する
メールとパスワードでのログインを使う場合、乗り換え時に、保管されているパスワードの情報を新しいサービスに移せるかどうかが問題になります。移せない場合、利用者全員にパスワードの再設定をお願いすることになり、利用者の体験を損ないます。選ぶ時点で、データの書き出しとパスワード情報の移行がどの程度できるかを確認しておきます。
ログインまわりで最低限守るべき安全対策
外部の認証サービスに任せても、自社のサービス側で気をつけるべき点は残ります。MVPであっても、次の項目は省かないようにします。
他人のデータにアクセスできないようにする:ログインしているかどうかだけでなく、ログインしている利用者が、そのデータを見てよい本人かどうかを毎回確認します。たとえば、画面のアドレスに含まれる番号を書き換えるだけで他人の情報が見えてしまう、という不具合は、MVPで起こりやすい典型的な問題です。
管理者の権限を分ける:運営者が使う管理機能には、一般の利用者とは別の権限を設け、管理者のアカウントには二段階認証を必ず設定します。管理者のアカウントが乗っ取られると、すべての利用者のデータが危険にさらされます。
ログイン状態の有効期限を決める:ログインした状態をどのくらいの期間保つかを決めます。扱う情報が重要なほど、短めに設定し、重要な操作の前には再確認を求める設計にします。
秘密の設定情報を管理する:認証サービスとつなぐための秘密の鍵などは、プログラムのソースコードに直接書かず、環境ごとの設定として安全に管理します。
これらは、どの認証サービスを使っても自社の責任として残る部分です。MVPの品質の線引きをするときも、ここは削らない部分として扱ってください。
外部認証を組み込む手順
外部の認証サービスをMVPに組み込む手順は、おおむね次のとおりです。
- 必要なログイン方法を決める:対象の利用者が使いやすい方法を選ぶ。法人向けか個人向けかで変わる
- 認証サービスを選ぶ:前述の比較の観点で候補を比べ、テスト環境で試してから決める
- 開発用と本番用の設定を分ける:認証サービス側の設定を、環境ごとに分けて用意する
- ログインと登録の画面を組み込む:認証サービスが用意する画面や部品を使い、必要に応じて見た目を整える
- 自社のデータベースに利用者の情報を作る:初めてログインした利用者に自社の番号を振り、認証サービス側の番号と紐づける
- ページの保護を作る:ログインしていない利用者がアクセスできないページを決め、確認の仕組みを入れる
- メールの文面と送信元を整える:確認メールや再設定メールの文面と送信元を、自社のサービスとして違和感のないものにする
- 主なケースを試す:登録、ログイン、ログアウト、パスワードの再設定、確認前のアクセス、有効期限切れなどを試す
- 利用規約とプライバシーポリシーを整える:利用者の情報を外部のサービスで扱うことを、必要に応じて記載する
7は見落とされがちですが、利用者の体験に関わります。認証サービスの初期設定のまま、見慣れない送信元から英語の文面のメールが届くと、利用者が不審に思って手続きをやめてしまうことがあります。
具体的な場面の例
架空の例で考えてみます。ある会社が、中小企業の経理担当者向けに、経費の申請と承認を簡単にするWebサービスのMVPを作ることにしました。
最初は、開発者が慣れているフレームワークの認証機能を使い、自社でログインを作る案が出ていました。しかし、検討を進めると、将来は顧客企業から「社内で使っているアカウントでログインしたい」という要望が出ることが予想されました。また、経理の情報を扱うため、二段階認証も早めに求められそうです。
そこで、企業向けのSSOや二段階認証に対応できる認証サービスを選びました。MVPの段階では、メールアドレスとパスワードでのログインと、メールアドレスの確認、パスワードの再設定だけを使い、SSOは使いません。利用者の所属会社や役割の情報は、自社のデータベースで管理し、認証サービス側の番号は紐づけ用に保存しました。
公開から数か月後、ある顧客企業からSSOの要望が実際に寄せられました。認証サービスがもともと対応していたため、設定の追加と、自社のデータベースでの会社の紐づけの調整だけで対応できました。最初から自前で作っていた場合、この対応にはかなりの時間がかかっていたはずです。
よくある失敗と避け方
認証サービスの番号をそのまま利用者番号として使う:乗り換えが極めて難しくなります。自社の番号を振り、紐づけ用の情報として別に持つようにします。
料金の構造を確認せずに選ぶ:利用者が増えたときや、上位の機能を使いたくなったときに、想定外の費用がかかることがあります。利用者数が増えた場合の費用の変わり方と、必要になりそうな機能がどのプランに含まれるかを確認しておきます。
ログインの方法を最初から増やしすぎる:SNSアカウントでのログインを何種類も用意すると、同じ人が別々のアカウントを作ってしまう問題が起きやすくなります。MVPでは対象の利用者に合った方法に絞ります。
権限の確認を画面の表示だけで行う:ログインしているかどうかの確認や、他人のデータを見られないようにする確認は、画面の表示だけでなく、データを返す側の処理でも必ず行います。画面で隠すだけでは、仕組みを知る人に情報を取られてしまいます。
メールの到達を確認しない:確認メールや再設定メールが迷惑メールに振り分けられると、利用者は登録を完了できません。送信元の設定を整え、主なメールサービスで届くかを確認します。
法人向けの要件を考えずに選ぶ:法人向けのサービスでは、SSOや、組織単位のアカウント管理が必要になることが多くあります。組織の管理機能の考え方はSaaSの組織管理機能の設計も参考にしてください。
認証の方式を決めるときのチェックリスト
- 対象の利用者に合ったログイン方法を決めた
- 将来、法人向けのSSOや二段階認証が必要になるかを検討した
- 利用者数が増えたときの費用の変わり方を確認した
- 利用者のデータの書き出しと、パスワード情報の移行の可否を確認した
- 利用者の情報が保管される地域が、自社の方針や顧客の要件に合っている
- 自社のデータベースに独自の利用者番号を持ち、認証サービスの番号は紐づけ用に保存する設計にした
- 認証サービスとのやりとりを、プログラムの一か所にまとめた
- 開発用と本番用の設定を分けた
- 確認メールと再設定メールの文面と送信元を整えた
- データを返す側の処理で、ログインと権限の確認をしている
- 利用規約とプライバシーポリシーに、必要な記載をした
よくある質問
Q. MVPでは自前でログインを作ってはいけないのですか?
いけないわけではありません。使うフレームワークに信頼できる認証の仕組みが用意されていて、開発者がその扱いに慣れている場合は、自前で作るほうが依存が少なく、費用も抑えられることがあります。避けたいのは、パスワードの保管や再設定などの仕組みを、ゼロから独自に作ることです。
Q. 認証サービスの費用はどのくらい見込めばよいですか?
料金の体系はサービスごとに異なり、利用者数、月間の利用者数、使う機能によって変わります。また、料金の条件は変更されることがあります。想定する利用者数の推移を何段階か置いて、それぞれの段階での費用を各サービスの公式情報で試算しておくことをおすすめします。
Q. 個人向けのサービスでは、どのログイン方法がよいですか?
対象の利用者が普段使っているアカウントでログインできると、登録の手間が減ります。一方で、メールアドレスで登録できる方法も残しておくと、SNSアカウントを使いたくない利用者にも対応できます。利用者の特徴に合わせて、1〜2種類から始めるのが現実的です。
Q. 後から認証サービスを乗り換えるのはどのくらい大変ですか?
設計次第で大きく変わります。自社のデータベースで利用者を管理し、認証サービスとのやりとりを一か所にまとめていれば、比較的小さな作業で済みます。そうでない場合は、利用者のデータとプログラムの多くを直すことになります。MVPの段階で少し意識しておくことが、後の大きな差になります。
Otsumuに相談できること
対象の利用者とログイン方法がはっきりしていて、社内の開発者が認証サービスの説明書を読みながら組み込める体制があるなら、この記事の観点とチェックリストに沿って、自社で選定と実装を進められます。個人向けのシンプルなサービスなら、開発基盤に含まれる認証の仕組みで十分なことも多くあります。
一方で、将来の法人対応やSSOを見据えてどのサービスを選ぶべきか判断がつかない、扱う情報が機微で安全対策の水準をどう決めるか迷っている、MVPの後に本格開発へ移るときの移行まで考えて設計したい、といった場合は、事業の見通しと技術の両方を踏まえて判断できる相手と進めたほうが、後の作り直しを避けられます。技術の選び方全般はMVPの技術スタックの選び方も参考にしてください。
Otsumuは自らも事業を手がける立場から、目的から逆算して必要な機能に絞り、AIを活用した少人数・短期間の開発で、構想から公開後の改善まで一気通貫で支援しています。新規事業の爆速MVPシステム開発では、認証や課金といった土台の部分を確実に作りつつ、検証に必要な機能に時間を集中させる進め方を基本にしています。会員向けの機能が中心のサービスは会員サイト開発もご覧ください。
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この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01