システム開発の予算を考えるとき、多くの人は開発費に目を向けます。しかし、システムは公開した後も動かし続けるためのお金がかかります。サーバーやクラウドの利用料、ドメインや証明書、メール配信や決済などの外部サービス、監視の仕組み、そして保守のための人の手間です。これらは毎月、システムを使い続ける限り発生します。開発費だけで投資の判断をすると、公開後に想定外の固定費に驚くことになります。
結論から言うと、運用コストを見積もるには、費用を「インフラ」「外部サービス」「監視・運用ツール」「保守・運用の人の手間」の四つに分け、それぞれが何に比例して増えるのかを把握することが大切です。利用者数に比例するもの、データ量に比例するもの、使った回数に比例するもの、利用量にかかわらず一定のものを分けて考えれば、事業の成長に合わせた費用の見通しが立てられます。
この記事は、システム開発を計画している事業責任者や、開発会社の見積もりに運用費が含まれているか確認したい発注側の担当者に向けて書いています。運用コストの内訳、見積もりの手順、開発会社への確認事項、費用を抑える設計の考え方、よくある失敗を整理します。なお、各クラウドや外部サービスの料金体系は変更されることがあるため、具体的な金額は各社の最新の公式情報で確認してください。
開発費とは別にかかる運用コストの全体像
システムの総費用は、作るための費用(開発費)と、動かし続けるための費用(運用コスト)に分けて考えます。運用コストは、さらに次の四つに分けると整理しやすくなります。
| 区分 | 主な費用の例 | 費用の増え方 |
|---|---|---|
| インフラ | サーバー、データベース、ファイル保存、通信量、バックアップ | 利用者数・データ量・通信量に比例する部分が多い |
| 外部サービス | ドメイン、メール配信、SMS、決済手数料、地図、認証、生成AIのAPI | 送信数・取引額・呼び出し回数など、使った量に比例するものが多い |
| 監視・運用ツール | 監視サービス、ログの保管、エラー通知、バックアップの保管 | データ量や監視対象の数に比例するものが多い |
| 保守・運用の人の手間 | 障害対応、ソフトウェアの更新、問い合わせ対応、小さな改修 | 契約の範囲と、システムの複雑さで決まる |
このうち、見落とされやすいのが外部サービスと人の手間です。インフラの費用は開発会社が見積もりに含めることが多い一方、外部サービスは「お客様のご契約で」と前提だけが書かれていることがあります。保守の費用も、開発の見積もりとは別に提示されるのが一般的です。
固定費と変動費に分けて考える
運用コストを事業計画に組み込むときは、固定費と変動費に分けて考えると見通しが立てやすくなります。利用者がいなくてもかかる費用(最低限のサーバー、ドメイン、保守契約の基本料金など)は固定費、利用者や取引が増えるほど増える費用(通信量、メール送信、決済手数料、生成AIの呼び出しなど)は変動費です。
新規事業では、立ち上げ直後は利用者が少ないため、固定費をできるだけ小さくすることが重要です。一方、事業が成長してからは、変動費の単価が利益を左右します。どちらの段階にいるかによって、選ぶべき構成も変わります。
毎月ではないが定期的にかかる費用もある
運用コストには、毎月の費用のほかに、年に一度や数年に一度かかる費用もあります。ドメインや証明書の更新、外部サービスの年間契約、定期的な脆弱性診断、そしてフレームワークやOSの大きな更新に伴う改修作業などです。特に大きな更新は、放置するとサポートが切れて安全に使い続けられなくなるため、数年単位の計画に含めておく必要があります。
インフラ費用の見積もり方
インフラ費用は、システムの構成と利用の規模によって決まります。クラウドの料金体系は、サーバーの性能と稼働時間、データの保存量、通信量など、使った分だけ支払う形が一般的です。
見積もりの前提として、次の情報を開発会社と共有します。
- 想定する利用者数(立ち上げ時、一年後、事業が軌道に乗った時期の三段階程度)
- 同時に使う人数の最大値と、利用が集中する時間帯
- 保存するデータの種類と量(画像や動画、文書ファイルなど容量の大きいものの有無)
- データを保存しておく期間
- 求める稼働の水準(停止が許される時間、夜間や休日の対応の要否)
- バックアップの頻度と保存期間
特に、稼働の水準はインフラ費用に大きく影響します。停止を極力避けたいなら、サーバーを複数台で動かす冗長化の構成が必要になり、その分の費用がかかります。社内の業務システムで、夜間や休日は止まっても困らないのであれば、構成をシンプルにして費用を抑えられます。
小さく始めて後から拡張できる構成の考え方は、MVPのインフラ構成で詳しく説明しています。
環境の数も費用に影響する
本番環境に加えて、開発環境やテスト用の環境(ステージング環境)を用意する場合、それぞれに費用がかかります。テスト用の環境を本番と同じ構成で常に動かしておくと、費用は本番に近い水準になります。使わない時間は停止する、性能を落とした構成にする、といった工夫で抑えられる部分です。用語の意味は開発環境・ステージング環境・本番環境の解説も参考にしてください。
外部サービスの費用の見積もり方
外部サービスの費用は、サービスごとに料金の仕組みが異なるため、一覧にして整理するのが確実です。
| サービスの種類 | 料金が増える主な要因 | 見積もりに必要な情報 |
|---|---|---|
| メール配信 | 送信通数 | 会員数、一人あたりの月間送信回数 |
| SMS送信 | 送信通数 | 本人確認や通知でSMSを送る回数 |
| 決済 | 取引の件数・金額 | 想定する取引件数と金額 |
| 認証サービス | 利用者数・アクティブな利用者数 | 登録者数と、実際にログインする人数 |
| 地図・位置情報 | 表示や検索の回数 | 地図を表示する画面の閲覧回数 |
| 生成AIのAPI | 処理する文章の量・呼び出し回数 | 一回あたりの入出力の長さと、利用回数 |
| ファイル変換・画像処理 | 処理件数 | アップロードされるファイルの数 |
見積もりの手順は、どのサービスでも基本的に同じです。
- 使う外部サービスを一覧にする:開発会社に、システムが連携する外部サービスをすべて挙げてもらいます。
- 料金の仕組みを確認する:各サービスの公式情報で、何に対して費用が発生するのか、無料の範囲はあるのかを確認します。
- 利用量を見積もる:事業計画の利用者数から、送信通数や呼び出し回数などの利用量を計算します。
- 段階ごとに試算する:立ち上げ時、成長期など、利用者数の段階ごとに費用を計算します。
- 契約の名義と支払い方法を決める:自社で契約するのか、開発会社がまとめて契約するのかを決めます。
生成AIを組み込んだシステムの場合は、APIの利用料が利用量に応じて大きく変わることがあるため、特に注意が必要です。見積もり方の詳細は、生成AIを組み込んだシステム開発の費用とAPI利用料の見積もり方で説明しています。
監視と保守・運用の費用
監視・運用ツールの費用
システムが正常に動いているかを見張る監視の仕組みや、エラーの通知、ログの保管にも費用がかかります。クラウドに標準で付いている機能で足りる場合もあれば、専用の監視サービスを使う場合もあります。ログの保管は、保存する量と期間によって費用が増えるため、何をどれくらいの期間残すかを決めておくことが大切です。
保守・運用の人の手間
運用コストの中で、金額の幅が最も大きくなりやすいのが、保守・運用の人の手間です。主な作業は次のとおりです。
- 障害の検知と対応、原因の調査
- OSやライブラリの更新、セキュリティ修正
- クラウドの設定変更や構成の見直し
- 利用者や社内からの問い合わせへの回答
- 小さな不具合の修正や、文言・設定の変更
- 定期的なバックアップの確認と、復旧の訓練
これらをどこまで保守契約に含めるか、対応時間(平日の日中のみか、夜間や休日も含むか)をどうするかで、費用は大きく変わります。保守契約の範囲の決め方や、保守費用の内訳と見直しはシステム保守費用の考え方で詳しく扱っています。
運用コストの試算表の作り方
ここまでの費用を一つの表にまとめておくと、社内での説明や、開発会社との認識合わせに使えます。行に費用の項目、列に利用者数の段階を並べ、それぞれの費用が何に比例するかも書いておきます。
| 費用の項目 | 増える要因 | 立ち上げ時 | 一年後 | 軌道に乗った時期 |
|---|---|---|---|---|
| サーバー・データベース | 同時利用者数・データ量 | 試算額 | 試算額 | 試算額 |
| ファイル保存・通信量 | 保存容量・閲覧回数 | 試算額 | 試算額 | 試算額 |
| メール・SMS配信 | 送信通数 | 試算額 | 試算額 | 試算額 |
| 決済手数料 | 取引件数・金額 | 試算額 | 試算額 | 試算額 |
| 監視・ログ保管 | データ量 | 試算額 | 試算額 | 試算額 |
| 保守契約 | 契約範囲 | 試算額 | 試算額 | 試算額 |
表の各欄には、前提とした利用量もあわせて書いておきます。前提が書かれていれば、実際の利用量が分かった段階で試算を更新でき、どの項目の見込みが外れたのかも振り返れます。
運用コストを見積もるときの確認チェックリスト
開発会社の見積もりや提案を受け取ったら、運用コストについて次の点を確認しましょう。
- インフラの構成図と、それぞれの費用の目安が示されているか
- 利用者数の段階ごとに、インフラ費用がどう変わるかの試算があるか
- 連携する外部サービスの一覧と、それぞれの料金の仕組みが示されているか
- 外部サービスの契約者が、自社か開発会社かが明記されているか
- 本番以外の環境(開発・テスト用)の費用が含まれているか
- 監視とログの保管の費用が含まれているか
- バックアップの頻度と保存期間、その費用が示されているか
- 保守契約の範囲、対応時間、費用の考え方が示されているか
- 為替の影響を受ける料金(海外のサービスの外貨建て料金など)が含まれているか
- 利用量が想定を超えたときに、費用の急増を検知する仕組みがあるか
- 数年後に必要になる大きな更新(フレームワークの大幅な更新など)の見込みが説明されているか
運用コストを抑える設計の考え方
運用コストは、開発の段階の設計で大きく変わります。後から構成を変えるのは手間がかかるため、最初に考えておく価値があります。
利用者一人あたりの費用で考える
事業計画に運用コストを組み込むときは、総額だけでなく、利用者一人あたり、あるいは取引一件あたりの費用に換算してみると判断しやすくなります。たとえば、会員一人あたりの月の運用コストが分かれば、会費や広告費とのバランスを検討できます。一人あたりの費用が利用者の増加とともに下がっていく構成なのか、ほとんど下がらない構成なのかによって、事業の利益の出方は大きく変わります。開発会社に試算を依頼する際は、この換算もあわせてお願いするとよいでしょう。
使った分だけ払う仕組みを選ぶ
利用者が少ない立ち上げ期には、常にサーバーを動かしておく構成よりも、処理があるときだけ動く仕組み(サーバーレスなど)や、利用量に応じて自動で規模が変わる仕組みを選ぶことで、固定費を抑えられる場合があります。ただし、利用量が大きくなると逆に割高になることもあるため、事業の段階に応じて見直す前提で選びます。
マネージドサービスで人の手間を減らす
データベースやファイル保存、認証などを、クラウド事業者が運用を担うマネージドサービスで実現すると、利用料は上がることがありますが、更新や障害対応の人の手間を減らせます。人の手間の費用と比べて判断するのがポイントです。
データの保存期間を決める
ログや古いデータを無期限に保存し続けると、保存の費用が少しずつ積み上がります。法令や社内規程で必要な保存期間を確認したうえで、それを超えたデータは安価な保存領域に移す、削除する、といったルールを決めておきます。
費用のアラートを設定する
クラウドには、利用料が一定の額を超えたときに通知する機能があります。設定の誤りやアクセスの急増で費用が膨らんだときに早く気づけるよう、公開時に必ず設定しておきます。公開後に費用が想定より高くなった場合の見直し方は、クラウド費用が想定より高いときの見直しポイントと削減手順で説明しています。
架空の例:会員制サービスの運用コストを試算する
ここでは架空の例で、運用コストの試算の進め方を見てみます。
ある会社が、会員が動画教材を視聴し、課題を提出できる会員制の学習サービスを立ち上げることになりました。開発会社の見積もりには、開発費と保守費の月額が書かれていましたが、担当者が確認したところ、動画の配信にかかる通信量の費用と、メール配信サービスの費用は「別途」となっていました。
担当者は開発会社に依頼し、会員数を立ち上げ時、一年後、事業が軌道に乗った時期の三段階で想定し、それぞれの段階でのインフラ費用と外部サービスの費用を試算してもらいました。その結果、動画の通信量が会員数とともに大きく増えることが分かりました。そこで、動画の画質を利用者の通信環境に合わせて自動で切り替える仕組みを導入し、さらに動画の配信は専門の配信サービスを使う構成に変更しました。
この試算により、会員一人あたりの運用コストが見えるようになり、会費の設定や広告にかけられる費用を事業計画に正しく反映できました。この例のポイントは、利用量に比例する費用を早い段階で見つけ、設計の工夫で抑えたことです。
よくある失敗と避け方
開発費だけで投資判断をする
開発費の見積もりだけで事業計画を立て、運用コストを考慮しないケースです。公開後に毎月の固定費が想定を上回り、事業の採算が合わなくなります。開発の見積もりを取る段階で、運用コストの試算もあわせて依頼しましょう。
外部サービスの契約を開発会社の名義にしてしまう
開発会社にすべて任せた結果、クラウドや外部サービスの契約が開発会社の名義になり、費用が保守費に上乗せされて請求されるケースです。費用の内訳が見えにくくなるうえ、開発会社を変えるときの移管も複雑になります。本番環境の主要な契約は、自社の名義にしておくのが基本です。
成長したときの費用を試算していない
立ち上げ時の費用だけを見て、利用者が増えたときの費用を試算していないケースです。利用量に比例する費用が多い構成では、事業が成長するほど費用が増え、利益を圧迫することがあります。利用者数の段階ごとに試算し、どの費用が成長とともに増えるのかを把握しておきます。
無料の範囲を前提にする
外部サービスの無料の範囲を前提に計画し、利用量が増えて有料になったときに慌てるケースです。無料の範囲を超えた場合の料金を、計画の段階で確認しておきましょう。
為替や料金改定の影響を考えていない
海外のクラウドや外部サービスの多くは、外貨建ての料金や、事業者による料金改定の影響を受けます。試算した時点の金額が将来も続くとは限りません。事業計画には一定の余裕を持たせ、料金の変更の知らせがあったときに影響を確認する担当を決めておきましょう。
よくある質問
Q. 運用コストは、開発費に対してどれくらいを見込めばよいですか?
システムの構成、利用量、保守の範囲によって大きく異なるため、一律の目安はありません。本記事の四つの区分ごとに、開発会社に試算を依頼し、利用者数の段階ごとに確認することをおすすめします。
Q. クラウド事業者はどこを選べばよいですか?
AWS、Google Cloud、Microsoft Azureなどの主要なクラウドは、いずれも一般的なシステムに必要な機能を備えています。開発会社が慣れているもの、自社の既存の環境と連携しやすいものを基準に選ぶのが現実的です。料金の細部はサービスや時期によって変わるため、最新の公式情報で確認してください。
Q. 保守費用を抑えるために、保守契約を結ばないという選択はありますか?
小さなシステムで、自社に一定の技術を持つ人がいれば、必要なときだけ都度依頼する形もありえます。ただし、OSやライブラリの更新、セキュリティ修正を誰も行わない状態は危険です。最低限の更新と障害時の対応をどう確保するかは、必ず決めておきましょう。
Q. 公開後、運用コストはどのくらいの頻度で見直すべきですか?
公開直後は利用の状況が変わりやすいため、毎月の請求額を確認し、試算との差を見ておくことをおすすめします。状況が安定してきたら、四半期ごとや、利用者数が大きく変わったタイミングで構成と契約を見直す運用にするとよいでしょう。
Otsumuに相談できること
システムの構成がシンプルで、開発会社から運用コストの試算をきちんと出してもらえるなら、本記事のチェックリストを使って自社で十分に確認できます。外部サービスの料金は公式情報で確認し、利用者数の段階ごとに表にまとめるだけでも、事業計画の精度は大きく上がります。
一方で、利用量に比例する費用が多い事業(動画、生成AI、メッセージ配信など)や、事業の成長に合わせて構成を変えていく必要がある場合は、事業計画とシステムの設計を一緒に考えられる外部の視点が役立ちます。
Otsumuは、自らも事業を手がける実践者として、開発費だけでなく運用コストを含めた事業の採算から逆算した設計を大切にしています。開発全般はシステム開発、既存のサーバーからの移行はクラウド移行、運用の手間を減らす仕組みづくりは自社サービス運用の自動化コンサルティングのページもご覧ください。
まずは30分の無料相談で、作ろうとしているシステムと事業の計画についてお聞かせください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01