分類:企業事例 › ソフトウェア・SaaS
この事例の要点
- Agora, Inc.は、アプリにビデオ・音声・チャットなどのリアルタイム通信を組み込めるAPIを提供し、月10,000分の無料枠を超えた利用分から課金する従量課金モデルを採っています(Form 20-F、2025年12月期)。
- 2025年の売上は141.1百万米ドル(前年比5.9%増)で、米国側のAgora事業が74.9百万米ドル(同16.1%増)と伸び、営業損失は2023年の87.3百万米ドルから2025年の9.4百万米ドルへ縮小しました(Form 20-F、2025年12月期)。
- 2025年3月に、音声のAIエージェントを作れる会話型AIエンジンを発表し、人と人の通信から、人とAIの会話へ用途を広げています(Form 20-F、2025年12月期)。
どんな事業か
Agora, Inc.は、ケイマン諸島の持株会社で、米国ナスダックにADSを上場しています。同社は、米国カリフォルニア州サンタクララに本社を置くAgora事業と、中国・上海に本社を置くShengwang(声網)事業の、2つの独立した事業部を運営しています。両事業とも2014年に立ち上がり、開発者向けにリアルタイム通信のプラットフォーム(RTE-PaaS)を提供しています。以前は中国での事業を契約で支配する構造(VIE)で運営していましたが、2025年1月にその契約を終了し、中国子会社を通じて事業を行う形に変えました(Form 20-F、2025年12月期)。
同社は、ビデオ通話やライブ配信、チャット、会話型AIなどの機能を、SDKとクラウド側のネットワーク(SD-RTN)の組み合わせで提供しています。ユーザー側の端末に組み込むSDKと、ミリ秒単位の低遅延を狙うネットワークを一体で用意することで、開発者が自前で作る負担を減らす、という位置づけです。2025年12月末時点で、累計の登録アプリは100万を超え、用途は200を超える業種・場面に広がっていると説明されています(Form 20-F、2025年12月期)。
収益の仕組み
- 入り口:アカウントごとに月10,000分のリアルタイム通信を無料で使える枠を用意し、開発者が試作・導入しやすくしています。
- 課金:無料枠を超えた利用分に使用量に応じた料金がかかり、その時点で顧客として売上が発生します。大半の収益は、ビデオやその他の製品の使用量にもとづく料金です。
- 契約:顧客の多くは12か月契約で、利用実績にもとづき毎月後払いで請求されます。大口顧客には段階的な量割引があり、一部は最低利用額の約束と引き換えです。
- 継続・拡張:顧客の事業が伸びて利用量が増えるほど、同社の収益も伸びる関係で、同社はこれを「顧客の成功を分け合う」従量課金モデルと説明しています。
数字で確かめる
- 売上は2023年が141.5百万米ドル、2024年が133.3百万米ドル、2025年が141.1百万米ドルで、2025年に5.9%増に転じました。うちAgora事業は64.5百万米ドルから74.9百万米ドルへ16.1%増え、Shengwang事業は68.8百万米ドルから66.2百万米ドルへ3.7%減ったことが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- Agora事業のドルベース売上継続率は93%(2023年)、95%(2024年)、109%(2025年)と上がりました。既存顧客の利用量が増える方向に戻ったことが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- Agora事業の有効顧客数(過去12か月の売上が100米ドルを超える顧客)は1,683社(2023年)、1,723社(2024年)、2,085社(2025年)と増えました。Shengwang事業は1,835社、1,979社、1,876社でした。2事業で顧客の動きが分かれていることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- 粗利率は2024年の64.1%から2025年の66.4%へ上がりました。同社は、粗利率の低い一部製品の販売終了が主因と説明しており、使用量が増えても通信コストの管理で利益率を保てる構造であることが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
- 営業損失は2023年の87.3百万米ドル(のれん減損31.9百万米ドルを含む)から2024年の53.3百万米ドル、2025年の9.4百万米ドルへ縮み、2025年の当期純利益は9.5百万米ドルでした。売上が横ばい圏でも、費用の見直しで赤字が縮んだことが読み取れます(Form 20-F、2025年12月期)。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事業は、無料枠で試作段階の参入障壁を下げ、利用量が増えるほど売上が伸びる「フリーミアム+従量課金」を、開発者向けの「APIプラットフォーム」に載せた型として読めます。開発者は小さく試し、アプリが成長した分だけ支払うため、導入時の意思決定が軽く、顧客の成長がそのまま売上の伸びになります。2025年のAgora事業で継続率が109%に達したことは、既存顧客の中で利用が増えた部分が、離れた分を上回ったことを示すと読めます。
一方で、従量課金は顧客の事業の波をそのまま受けます。同社は過去に、新型コロナ期に需要が膨らんだ後の反動で、売上が減少した時期があると資料で説明しています。収益が使用量に比例する分、特定の用途(ソーシャル、教育、ライブコマースなど)の流行に左右されやすい、という弱点でもあります。2025年に伸びたAgora事業が、ライブコマースなどの用途の使用量増を要因として挙げている点は、この波を別の用途で補う動きと読めます。
会話型AIは、この型の「単価」と「用途」を広げる試みです。人と人の通信だけでなく、人とAIの音声のやり取りも同じ通信基盤の上で扱えれば、使用量の源が増えます。同社が複数の音声認識・言語モデル・音声合成の組み合わせを比較する評価ツールを公開していることは、中身を選べる中立の基盤であることを、開発者への訴求にしていると考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の商品に、顧客が最初の一歩を軽く踏み出せる「無料の枠」や、試作用の使い方は設計されていますか。
- 顧客の成長に合わせて自社の売上も伸びる課金の単位(人数・回数・時間・件数など)は何でしょうか。
- 特定の用途や流行に売上が偏っていないでしょうか。偏っているなら、別の用途へ同じ基盤を広げる道筋は描けますか。
小さく試すなら
- 顧客が最初に使い始めてから有料になるまでの流れを、直近の10社ほどでたどり、つまずいた地点を書き出します。
- 無料で試せる範囲(回数・期間・量)を、1つだけ仮に決めて文章にし、2〜4週間、新規の見込み顧客3〜5社に伝えて反応を見ます。
- 課金の単位の候補を2つ挙げ、既存顧客のデータで、どちらが顧客の成長と売上の伸びによく連動するかを集計します。
- 売上を用途別に分け、上位1つの用途が占める割合を確認し、2番目以降の用途に同じ仕組みを広げる案を一枚にまとめます。
関連するビジネスモデル
資料の位置づけ
企業・サービス:Agora, Inc. / リアルタイム通信API(Agora・Shengwang)。参照資料:Form 20-F(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25