分類:企業事例 › ソフトウェア・SaaS
この事例の要点
- N-ableは、IT運用管理、セキュリティ運用、データ保護のソフトウェアを、マネージドサービス事業者(MSP)などのIT事業者を通じて販売しています。同社は10-Kで、商業上の関係の大半はこれらのチャネルパートナーとのものと説明しています。
- 課金は、約束した量にもとづく契約か、使った量に応じた従量(pay-as-you-go)かを選べます。期間は月単位から複数年まで幅があります。
- パートナーが顧客を増やし、顧客が端末やサービスを増やすたびに自社の収益も増える「ランド・アンド・エクスパンド」の構造で、売上のほぼすべてがサブスクリプションです。
どんな事業か
N-able, Inc.は、米国マサチューセッツ州バーリントンに本社を置き、NYSEに上場しています。かつてSolarWinds Corporationの一事業部門だった会社です(Form 10-K、FY2025〔2025年12月31日終了年度〕)。自社を、サイバーセキュリティとIT運用のソフトウェア基盤を提供する会社と説明しています。
提供する機能は三つの軸に分かれます。端末を一元管理するUEM、脅威の検知と対応を担うセキュリティ運用、バックアップと復旧のデータ保護です。基盤は複数の顧客を分けて扱えるマルチテナント構造で、クラウド、オンプレミス、ハイブリッドのどれでも使えると説明されています。2024年11月にはAdluminを買収しています(Form 10-K、FY2025)。
収益の仕組み
同社の顧客は、主にIT事業者です。そのIT事業者が、中小・中堅企業にIT管理やセキュリティを継続契約で提供します。N-ableは、その土台の道具を貸す立場です。
- 入り口:オンラインや電話の「内側からの営業」と、現地を訪れる営業を組み合わせ、パートナーを増やします。パートナーを一社加えると、その顧客も通常は一緒に加わります。
- 課金:約束した量にもとづく契約か、毎月の利用量に応じた従量課金かを、パートナーが選びます。
- 継続:パートナー自身がMSPとして顧客と月額・年額の継続契約を結ぶため、道具の利用も続きやすい構造です。
- 拡大:パートナーの顧客が端末やサービスを増やすと、利用量が増えます。
数字で確かめる
- 2025年の売上高(サブスクリプションとその他)は511.4百万ドルで、前年の466.1百万ドルから9.7%増えました。うちサブスクリプション売上は506.2百万ドルで、売上の99.0%を占めます(Form 10-K、FY2025)。収益のほぼすべてが継続課金であることが読み取れます。
- ARRは2025年12月31日時点で539.7百万ドルで、前年末の482.5百万ドルから11.9%増えました。同社は、増加の一部にAdlumin買収の影響があると説明しています(Form 10-K、FY2025)。契約の積み上がりが売上より先に伸びていることが読み取れます。
- ARRが5万ドルを超える顧客は2,671社で、前年末の2,349社から13.7%増えました。この層は、総ARRの約57%から約61%に高まりました(Form 10-K、FY2025)。契約額の大きい顧客への比重が増していることが読み取れます。
- ドル建ての純売上維持率(Net Revenue Retention)は、直近12か月で2025年が103%、2024年が103%、2023年が110%でした(Form 10-K、FY2025)。既存顧客の拡大が続く一方で、2023年より勢いが落ち着いていることが読み取れます。
- 売上のうち、米国は約49.6%、英国は約10.2%でした(Form 10-K、FY2025)。収益が米国以外にも広く分散していることが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事例は、自社が直接多数の中小企業に売るのではなく、中小企業を相手にしている事業者に売る設計だと読めます。中小企業は一社ごとの契約額が小さく、営業の費用が割に合いにくい相手です。そこで、顧客を束ねているMSPを窓口にすれば、一社の獲得で多数の端末が加わります。
従量課金とサブスクリプションの併用も、この構造に合っています。MSPは、顧客が増えたり減ったりするたびに、自分の費用も変動させたいはずです。使った分だけ払える課金は、MSPの収益と費用を連動させる効果があると考えられます。一方で同社の側は、パートナーの顧客数に収益が左右されるため、純売上維持率でその広がりを確認する必要があります。
トレードオフは、販売をパートナーに任せる分、最終顧客との距離が遠くなることです。同社は、パートナーの先の顧客が受けるセキュリティ侵害が、自社の信用に影響し得ることをリスクとして記載しています。窓口を借りる設計は、窓口の成功に自社の成長が結びつく設計でもあります。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の顧客を直接開拓する代わりに、同じ顧客を束ねている事業者を窓口にできないでしょうか。
- 窓口となる事業者の収益と費用が、自社の課金と連動する形になっているでしょうか。
- 窓口の先の顧客の様子を、自社はどんな指標で把握できるでしょうか。
小さく試すなら
- 自社の顧客が、日ごろ相談している事業者(制作会社、IT事業者、士業など)を、顧客数名に聞いて一覧にします。
- 一覧のうち、複数の顧客に関わっている事業者を3〜5社選び、自社の商品が彼らの提供サービスの一部として使えるかを、各社に聞きます。
- 使える場合に備え、契約額が事業者の顧客数や利用量に応じて変わる簡単な料金案を一枚にまとめて見せ、反応を記録します。
- 2〜4週間のうちに、1社と小規模な試行(顧客1〜3社分)を決め、事業者が自社の顧客に追加で売れた数と、利用の継続を確かめます。
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資料の位置づけ
企業・サービス:N-able, Inc. / N-ableプラットフォーム。参照資料:FY2025(2025年12月31日終了年度)Form 10-K。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25