← 企業事例

OTSUMU KNOWLEDGE

Qualys, Inc.「Enterprise TruRisk Platform」に学ぶ年額前払いと販売パートナーの事業設計

クラウド型の脆弱性管理基盤を、原則1年の年額契約で前払いにして売るQualysの事例です。半数近い売上がパートナー経由である構造を、Form 10-K(FY2025)の数値から読み解きます。

分類:企業事例 › ソフトウェア・SaaS

この事例の要点

  • Qualysは、クラウド型の「Enterprise TruRisk Platform」を、原則として1年の更新契約で販売し、契約額の全額を期初に請求しています。
  • 2025年の売上のうち49%が、販売パートナー経由でした。過去3年でこの比率が上がっています。
  • 特定の1顧客に売上が偏らず、10,000を超える顧客に広がっていることが、資料から読み取れます。

どんな事業か

Qualys, Inc.は米国の企業で、普通株式をNASDAQに上場しています(Form 10-K、FY2025〔2025年12月31日終了年度〕)。同社は自社を、IT、セキュリティ、コンプライアンスのためのクラウド型プラットフォームの主要な提供者と位置づけています。「Enterprise TruRisk Platform」の上に「Qualys Cloud Apps」と呼ぶ機能群が載り、SaaSとして提供されます(Form 10-K、FY2025)。

顧客は世界で10,000を超え、Forbes Global 100の過半が含まれると記載しています。2025年12月31日時点の常勤従業員は2,625人で、うち1,262人が研究開発、524人が営業・マーケティングです。従業員の約78%が米国外におり、約70%がインドにいます(Form 10-K、FY2025)。

収益の仕組み

収益の構造は、年額のサブスクリプションと、パートナー経由の販売の組み合わせです。

  • 入り口:クラウドで使い始められる基盤と、複数のアプリ。顧客は必要な機能から契約します。
  • 課金:サブスクリプションは原則1年で、更新されます。契約額の全額を期初に請求し、繰延収益として計上してから、契約期間にわたって均等に売上へ計上します。
  • 販売:自社の営業に加え、マネージドセキュリティサービス事業者(MSSP)、付加価値再販業者、コンサルティング会社などのパートナーが販売します。

この前払い・均等計上の仕組みは、Form 10-K(FY2025)に記載されたものです。

お金を払う人・対価顧客:年額サブスクリプション(期初に全額請求)パートナー経由の顧客:販売網を通じた契約クラウド型のIT・セキュリティ・コンプライアンス基盤
図1 Qualysの収益の流れ(Form 10-K、FY2025にもとづく整理)。

数字で確かめる

  • 総売上は、2025年に669.1百万ドル、2024年に607.6百万ドル、2023年に554.5百万ドルです。前年比は2025年が約10.1%、2024年が約9.6%の増加で、この比率は数値から計算したものです(Form 10-K、FY2025)。毎年1割前後の安定した成長が続いていることが読み取れます。
  • パートナー経由の売上は、2025年に49%、2024年に46%、2023年に43%でした(Form 10-K、FY2025)。販売の比重が、パートナーへ年々移っていることが読み取れます。
  • 米国の顧客からの売上は、2025年に56%、2024年に58%、2023年に60%でした。請求先住所をもとに分類しています(Form 10-K、FY2025)。残りの約44%は米国外で、海外の比率が少しずつ上がっていることが読み取れます。
  • 顧客は10,000を超え、2023年、2024年、2025年のいずれも、売上の10%を超える顧客はありませんでした(Form 10-K、FY2025)。特定の顧客への依存が小さい構造であることが読み取れます。
  • 従業員のうち営業・マーケティングは524人で、研究開発の1,262人の半分未満です(Form 10-K、FY2025)。販売の一部をパートナーに任せ、人員を開発に厚く配分していると読めます。

Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか

ここからはOtsumuの考察です。この事業は、サブスクリプションと代理店販売の型が重なっていると読めます。年額を期初に全額請求する形は、手元の現金の面で有利です。顧客にとっては、年に一度の契約で、機能を切らさずに使える形です。1年という短めの期間は、顧客が毎年、使い続ける価値を確認する機会にもなり、同社は成果を出し続ける必要があると考えられます。

パートナー経由の比率が上がっている点を、Otsumuは「自社で全ての顧客に営業しない設計」だと見ます。MSSPや再販業者は、自社の顧客に対して運用や導入の支援を併せて提供できるため、基盤の提供者は開発に集中できます。一方で、顧客との直接の関係が薄くなり、パートナーの販売力に左右されやすくなる、という代償もあると考えられます。

売上が特定の顧客に偏らない点は、パートナー網と広い顧客基盤の両方が機能している結果と読めます。ただし、これは資料から直接言えることではなく、Otsumuの推測です。

自社事業に持ち帰る問い

  • 自社の顧客が、年に一度、契約を続ける価値を確認する機会を、自社はどう作っているでしょうか。
  • 販売を任せられる相手は、自社の顧客とすでに近い関係を持つ事業者にいないでしょうか。
  • パートナーに任せる範囲と、自社に残す範囲は、どこで分けるのがよいでしょうか。

小さく試すなら

  1. 現在の顧客から、年額または半年額の前払いに変えても違和感のない顧客を数社選び、請求の形を聞き取ります。
  2. 自社の顧客と関係の深い事業者(導入支援、コンサルティング、運用会社など)を5社ほど挙げます。
  3. そのうち1〜2社に、紹介してもらった場合の条件(紹介料や支援の範囲)を、1枚の案にして見せます。
  4. 2〜4週間のうちに、紹介の意向と、売る際に困る点を聞き取ります。意向が出なければ、条件の前に、相手にとっての魅力を見直します。

関連するビジネスモデル

資料の位置づけ

企業・サービス:Qualys, Inc. / Enterprise TruRisk Platform。参照資料:Form 10-K(FY2025、2025年12月31日終了年度)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。

参考資料と編集について

上記の公開資料(企業の決算短信または年次報告書)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25

あわせて読む

次の一手を、一緒に。

この型を自社の事業に当てはめるとどうなるか、現在の段階に合わせて一緒に整理します。

事業について相談する ↗
FROM KNOWLEDGE TO ACTION

知識を、次の一手へ。

AIツール診断で、次の一手を整理する ↗