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Tencent Music Entertainment「QQ Music・Kugou・Kuwo」に学ぶ多層会員制の事業設計

中国の音楽配信Tencent Music Entertainmentが、広告会員・標準会員・SVIP会員の多層構成で課金ユーザーと単価を伸ばす構造を、SEC提出の年次報告書(Form 20-F、2025年12月期)から読み解きます。

分類:企業事例 › メディア・広告・ゲーム

この事例の要点

  • Tencent Music Entertainmentは、QQ Music・Kugou Music・Kuwo Musicの音楽配信と、WeSingなどの社会参加型エンタテインメントの2事業で収益を上げています。オンライン音楽の収益比率は2023年の62.4%から2025年の81.2%に高まりました(Form 20-F、2025年12月期)。
  • 会員は広告会員・標準会員・SVIP会員の多層構成で、広告動画を見て低い月額で使う入口から、特典の多い上位会員まで段階を用意しています(Form 20-F、2025年12月期)。
  • 2025年の課金ユーザーは年平均1億2,510万人(課金率22.9%)、月額ARPPUは11.8元に上がり、月間利用者が減るなかでも課金収益が伸びています(Form 20-F、2025年12月期)。

どんな事業か

Tencent Music Entertainment Group(TME)は、ケイマン諸島で設立された持株会社で、主たる事務所は中国・深圳にあります。ADSは2018年12月にニューヨーク証券取引所に上場し、2022年9月には香港取引所に重複上場しています。Tencentが議決権の93.6%(資料に記載の2026年3月31日時点)を実質的に保有している点も、資料に記載されています(Form 20-F、2025年12月期)。

主要アプリはQQ Music、Kugou Music、Kuwo Music、WeSingの4つで、ユーザー層や好みの違いに合わせて役割を分けていると説明されています。オンライン音楽サービスは、レコード会社などから許諾を受けた楽曲を配信し、基本機能はログインなしでも使えます。会員向けの機能や追加の特典には、WeixinまたはQQのアカウント、あるいは電話番号でのログインが必要です(Form 20-F、2025年12月期)。

収益の仕組み

同社の収益は、オンライン音楽サービスと、社会参加型エンタテインメント等の2本です(Form 20-F、2025年12月期)。

  • 入り口:基本機能は無料で、ログインなしで聴ける範囲があります。ログインした利用者に会員の選択肢を示します。
  • 課金その1(音楽サブスクリプション):広告会員は広告動画を一定数見ることで標準会員の特典の一部を、低い月額で使えます。標準会員は月ごとのダウンロード数や有料配信コンテンツ、SVIP会員は高音質、アプリのテーマ、ボーカル切り替え機能、アーティストとの交流イベントなどが加わります。
  • 課金その2(周辺サービス):オフラインのライブ、アーティストマネジメント、デジタルアルバムやグッズの販売、コンテンツのライセンス、広告などです。
  • 課金その3(社会参加型エンタテインメント):ライブ配信とカラオケでの仮想ギフトの販売で、収益の一部を配信者などに分け合います。

費用の中心は、レコード会社などへのロイヤルティや自社制作費、配信者への分配です。一部の許諾契約には、利用者数や利用量に連動しうる最低支払額の取り決めが含まれると記載されています(Form 20-F、2025年12月期)。

お金を払う人・対価会員:広告・標準・SVIPの月額ファン:ライブ・グッズ・デジタルアルバム視聴者:仮想ギフト(ライブ配信・カラオケ)オンライン音楽と社会参加型エンタメかかる費用レコード会社などへのロイヤルティ自社制作費配信者への分配
図1 Tencent Musicの収益の流れ(Form 20-F(2025年12月期)にもとづく整理)。

数字で確かめる

  • 2025年のオンライン音楽サービスの収益は267億2,600万元(前期比22.9%増)で、うち音楽サブスクリプションが176億6,000万元(16.0%増)です。社会参加型エンタテインメント等は61億7,600万元(7.3%減)でした(Form 20-F、2025年12月期)。会員収益が収益構成の重心になっていることが読み取れます。
  • 課金ユーザー(年平均)は2023年の1億90万人、2024年の1億1,760万人、2025年の1億2,510万人と増え、課金率は17.1%、20.6%、22.9%へ上がりました(Form 20-F、2025年12月期)。利用者のうち払う人の割合が着実に上がっていることが読み取れます。
  • 月間アクティブユーザーは2023年の5億8,900万人から2025年の5億4,700万人へ減りました(Form 20-F、2025年12月期)。利用者数が減っても、課金する人の割合を高めることで収益を伸ばしていることが読み取れます。
  • 月額ARPPU(サブスクリプション収益のみで算出)は、2023年の10.0元、2024年の10.8元、2025年の11.8元でした(Form 20-F、2025年12月期)。課金ユーザー数だけでなく、1人あたりの単価も上がっていることが読み取れます。
  • 社会参加型エンタテインメント等の収益は2023年の104億2,700万元から2025年の61億7,600万元に減り、収益に占める比率は37.6%から18.8%になりました。同社は、ライブ配信の一部機能の調整と、より厳格な法令遵守の手続きが主因と説明しています(Form 20-F、2025年12月期)。規制対応が収益構成を変えうることが読み取れます。

Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか

ここからはOtsumuの考察です。この事例の核心は、無料の入り口と上位会員の間に、複数の「段」を挟んでいる点だと読めます。広告を見ることで低い月額で使える広告会員は、お金を払うことへの心理的な壁を下げる役割を持つと考えられます。一度会員になれば、特典の違いによって、上位の会員への移行を促せる構造です。

上位のSVIPには、ライブや限定イベント、グッズなど、音楽そのもの以外の特典が加わります。同社が、会員特典の拡張が課金収益の伸びの要因だと説明していることから、「聴く権利」だけで差をつけず、体験で差をつけることで単価を上げていると読めます。

課題も明確です。許諾コンテンツへのロイヤルティという費用は、利用が増えるほど重くなります。また、収益の別の柱(ライブ配信)が規制対応で縮んだ事実は、一つの収益源への依存の怖さを示しています。会員の段を増やすことは、単価を上げる一方で、各段の差が利用者に伝わらなければ効果が出にくいとOtsumuは考えます。

自社事業に持ち帰る問い

  • 自社の無料の入り口と有料サービスの間に、払うことへの壁を下げる中間の段をつくれるでしょうか。
  • 上位プランの価値を、機能の多さではなく、他では得られない体験で示せるでしょうか。
  • 収益源が一つに偏っていないでしょうか。外部の規制や条件の変化に、どの程度さらされているでしょうか。

小さく試すなら

  1. 自社の無料サービス、または低価格サービスの利用者を、利用頻度の高い順に3層に分け、各層の人数を数えます。
  2. 各層の数名に、どんな特典や体験があれば追加で払うかを聞き、「機能」「体験」「優先対応」のどれが響くかを記録します。
  3. その結果をもとに、現行プランの上に置く上位プランを1つだけ設計し、価格と特典を書き出して数名に見せます。
  4. 2〜4週間で、上位プランに移りたいという意思表示と、現行プランに残りたい理由の両方を集め、段の差が伝わっているかを確認します。

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資料の位置づけ

企業・サービス:Tencent Music Entertainment Group / QQ Music・Kugou Music・Kuwo Music・WeSing。参照資料:Form 20-F(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。

参考資料と編集について

上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。

執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25

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