分類:企業事例 › 証券・保険・資産運用
この事例の要点
- Virtu Financial, Inc.は、独自開発の技術基盤で世界の市場に流動性を提供するマーケットメイク事業と、機関投資家向けの執行サービス事業の2つの事業セグメントを持つ金融会社です(Form 10-K、2025年12月期)。
- マーケットメイクは売値と買値の差(ビッド・アスク・スプレッド)を薄く、大量に積み上げて稼ぐ事業で、10-Kは取引ごと・銘柄ごとの収益性は大きくないと説明しています(Form 10-K、2025年12月期)。
- 執行サービス事業は、アルゴリズム取引、取引管理ソフト、分析ツールなどを手数料やテクノロジー料で提供する事業です(Form 10-K、2025年12月期)。
どんな事業か
Virtu Financial, Inc.は米国の企業で、ニューヨーク証券取引所にクラスA普通株式を上場しています(ティッカー:VIRT)。10-Kは、同社が最先端の技術を使って世界の市場に流動性を届け、顧客に透明性のある取引ソリューションを提供する金融会社だと説明しています。顧客は50か国超の数百の取引所・取引の場で、株式、ETF、オプション、為替、先物、債券、暗号資産、各種コモディティを取引できます(Form 10-K、2025年12月期)。
同社は自社の技術を、マーケットデータ、注文のルーティング、取引処理、リスク管理、市場監視の各モジュールからなる独自の多資産基盤と説明しています。10-Kによれば、この基盤は「第三者のライセンス料や処理手数料を大きく増やすことなく」新しい銘柄や資産クラス、地域に広げられるよう設計されています。顧客は数百のリテール証券会社、登録投資助言会社、プライベートクライアントのネットワーク、証券会社、運用会社などです(Form 10-K、2025年12月期)。
収益の仕組み
同社の事業は2つに分かれ、収益の取り方が異なります。
- マーケットメイク:自己資金で売り注文と買い注文の価格を提示し続け、大量の取引から小さなスプレッドを得る。売買の対象は現物・先物・オプションの株式、債券、為替、暗号資産、コモディティ。証券会社や銀行(セルサイド)や運用会社(バイサイド)に直接サービスを提供する。
- 執行サービス:顧客の代理(エージェント)として注文を執行し、委託手数料を得る。アルゴリズム取引、機関営業担当者による大口取引、ATS(私設取引システム)での注文の突き合わせが含まれる。
- ワークフロー技術:Triton EMSなどの取引管理ソフトと、世界の金融通信ネットワークITG Netを提供し、委託手数料・テクノロジー料の一部として収益化する。ITG Netは約9,000の接続と、600超の取引先への接続を支える。
- 分析:事前・リアルタイム・事後の取引コスト分析、ポートフォリオ構築の分析ツールを提供する。
10-Kは、マーケットメイクの収益に最も影響する要因として、取引量、実現ボラティリティ、注文フローの質、個人投資家の参加の水準を挙げています。ボラティリティが高まるとスプレッドが広がり、名目額あたりの捕捉率が上がることがあるとも説明されています(Form 10-K、2025年12月期)。
数字で確かめる
- 総収益:3,632,118千ドル(前期は2,876,949千ドル、2023年は2,293,373千ドル)。内訳は、トレーディング収益(スプレッド)2,436,707千ドル、利息・配当収入508,817千ドル、委託手数料・テクノロジー料617,025千ドル(Form 10-K、2025年12月期)。収益の多くがスプレッドであり、手数料型の収益がそれに続くことが読み取れます。
- 調整後ネット・トレーディング収益:2,145,327千ドル。セグメント別では、マーケットメイクが1,666,304千ドル、執行サービスが479,023千ドル(Form 10-K、2025年12月期)。売買の対価からブローカー・取引所・清算費用や注文フロー対価を差し引くと、収益の約78%がマーケットメイクで生まれていることが読み取れます。
- 執行サービスの内訳:委託手数料・テクノロジー料566,076千ドルが大半を占めます(Form 10-K、2025年12月期)。代理で執行する事業は、手数料と利用料中心の収益であることが読み取れます。
- 当期純利益:912,264千ドル(前期は534,535千ドル)。調整後EBITDAは1,399,223千ドルで、同マージンは65.2%(前期は57.5%)(Form 10-K、2025年12月期)。収益の増加に合わせて費用が同じ速さでは増えなかったことが読み取れます。
- 費用の構造:ブローカー・取引所・清算費用と注文フロー対価は769,774千ドル、通信・データ処理費用は249,207千ドル、従業員報酬は528,085千ドル(Form 10-K、2025年12月期)。取引量に連動する費用が大きい一方、技術基盤の費用は比較的小さいことが読み取れます。
Otsumuの読み解き:なぜ成り立つのか
ここからはOtsumuの考察です。この事例は、1件あたりの利益を小さく設計し、件数と自動化で積み上げる「薄利多売の技術型モデル」として読むことができます。10-Kは、自社が一取引あたり・一銘柄あたりの収益性は大きくないと述べつつ、低コストの技術によって、新しい銘柄・資産・地域を少ない追加費用で広げられると説明しています。利益の源泉は1件ごとの大きな差ではなく、同じ基盤を多くの市場で動かす規模にあると考えられます。
もう一つの特徴は、同じ技術基盤を「自社の売買」と「顧客への提供」の両方に使っている点です。マーケットメイクは自己資金で動く一方、執行サービスは顧客の代理として手数料を得ます。10-Kは、執行サービスのクライアントのうち、手数料収入の10%を超える顧客はなかったと説明しており、依存先が分散していることも安定面の根拠になりえます。自社で磨いた技術を、顧客向けの製品として別の収益に変えるやり方は、技術を持つ事業の広げ方として参考になります。
ただし、この型は市場の動きの影響を受けます。10-Kも、取引量とボラティリティが収益の最大の変数であると述べています。2025年12月期に収益が伸びたのは、環境の追い風も一因と読めます。自社に置き換えるときは、好調な年の数字ではなく、薄い利ざやを維持するための費用管理と技術投資を中心に学ぶとよいと考えられます。
自社事業に持ち帰る問い
- 自社の1件あたりの利益を意図的に薄くして、件数と自動化で積み上げる設計は可能でしょうか。
- 自社の内部で磨いた技術や仕組みを、顧客向けの製品として手数料や利用料で提供できないでしょうか。
- 外部環境の追い風に依存せず、費用が収益と同じ速さで増えない構造をつくれているでしょうか。
小さく試すなら
- 直近3か月の主要な作業(見積り、受注処理、請求など)を、1件あたりの所要時間と人件費で書き出します。
- 件数が多く、手順が決まっている作業を1つ選び、手作業を減らす仕組み(テンプレート、自動化ツール)を2〜4週間で試します。
- 試した前後で、1件あたりの時間と費用を比べ、件数が2倍になっても対応できるかを確認します。
- 社内で使った仕組みを、顧客の1〜2社に簡易版として試してもらい、利用料や手数料の反応を聞きます。
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資料の位置づけ
企業・サービス:Virtu Financial, Inc. / マーケットメイクと執行サービス。参照資料:Form 10-K(2025年12月期)。このページは公開情報にもとづく学習用の分析です。Otsumuの支援実績や当該企業との取引関係を示すものではありません。示唆と検証案はOtsumuの考察であり、企業自身の見解とは区別しています。
参考資料と編集について
上記の公開資料(目論見書・年次報告書・企業の公式発表など)をもとに、Otsumuが執筆しました。数値と企業の説明は資料の記載の範囲にとどめ、Otsumuの考察とは分けています。数値は資料の表記のままで、最新の情報は各社の開示をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.25