KPIツリーは、事業の最終目標であるKGIを、掛け算と足し算で要素に分解し、現場が日々動かせる行動の指標までつなげた図です。作り方の要点は三つあります。一つ目は、分解するたびに「掛け算か足し算か」をはっきりさせ、下の要素がそろえば上の数字が計算で再現できるようにすること。二つ目は、分解を「担当者が自分の行動で動かせる指標」にたどり着くまで続けること。三つ目は、全部の枝を同じ重さで扱わず、改善の余地が大きく、事業への影響が大きい枝に絞って重点の指標を選ぶことです。
KPIツリーが役に立つのは、数字の目標と日々の仕事のつながりが見えるようになる点です。「売上を伸ばせ」という目標だけでは、現場の担当者は何をすればよいか分かりません。ツリーで分解すると、売上は客数と客単価の掛け算、客数は新規と既存の足し算、新規は訪問者数と成約率の掛け算、というように、自分の担当がどの数字を動かす仕事なのかが明確になります。
この記事は、事業責任者やマネージャーで、KGIは決まっているが現場の目標にうまく落とし込めていない方、KPIツリーを作ったものの使われていない方に向けて書いています。分解の手順、業種ごとの分解の型、分解でよくある間違い、作った後の使い方までを具体例とともに解説します。
KPIツリーとは:KGIと行動指標をつなぐ地図
KPIツリーの基本的な意味はKPIツリーで解説していますが、ここでは実務での使い方に焦点を当てます。
ツリーの一番上には、事業として最終的に達成したい数字、つまりKGIを置きます。売上、利益、契約数、有料会員数などです。そこから下に向かって、KGIを構成する要素に分解していきます。下に行くほど指標は具体的になり、一番下には、営業担当の商談数、マーケティング担当の広告からの訪問者数、サポート担当の初回回答までの時間など、担当者が日々の行動で動かせる指標が並びます。
この構造を持つことで、次のようなことが可能になります。
- 目標に届かないとき、どの枝の数字が足りないのかを特定できる
- 改善の施策が、どの指標を通じて最終目標に効くのかを説明できる
- 部署ごとの目標が、全体の目標とどうつながるかを共有できる
- 数字の変化の原因を、上から下にたどって探せる
逆に言えば、ツリーの上下が計算でつながっていなかったり、一番下が担当者の動かせない指標で終わっていたりすると、これらの利点は得られません。作り方の要点はここにあります。
分解の基本:掛け算と足し算を使い分ける
KPIツリーの分解には、掛け算の分解と足し算の分解の二種類があります。
掛け算の分解は、「量 × 率」や「量 × 単価」の形で分ける方法です。売上を「客数 × 客単価」に分ける、客数を「訪問者数 × 成約率」に分ける、といった分け方です。掛け算の分解は、どの要素が足を引っ張っているのかを見つけるのに向いています。
足し算の分解は、種類や経路ごとに分ける方法です。客数を「新規顧客 + 既存顧客」に分ける、訪問者数を「検索からの訪問 + 広告からの訪問 + 紹介からの訪問」に分ける、といった分け方です。足し算の分解は、どの経路や種類が伸びているのか、落ちているのかを見るのに向いています。
| 分解の種類 | 形 | 例 | 向いている使い方 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 掛け算 | 量 × 率、量 × 単価 | 売上 = 客数 × 客単価 | ボトルネックの特定、改善の効果の試算 | 要素同士が独立しているか確認する |
| 足し算 | Aの量 + Bの量 | 客数 = 新規 + 既存 | 経路や種類ごとの比較、担当の切り分け | 漏れや重なりがないか確認する |
| 比率への分解 | 全体 × 構成比 | 有料会員 = 登録者 × 有料化率 | 段階ごとの歩留まりの把握 | 分母の定義をそろえる |
実際のツリーでは、掛け算と足し算を交互に使うことが多くなります。たとえば、売上を客数と客単価に掛け算で分け、客数を新規と既存に足し算で分け、新規を訪問者数と成約率に掛け算で分ける、という具合です。
分解の正しさを確かめる方法
分解ができたら、下の要素の数字を実際に入れて、上の数字が計算で再現できるかを確かめます。客数と客単価の実績を掛けて、売上の実績とほぼ一致するかを確認するのです。大きくずれる場合は、定義がそろっていない(期間が違う、対象の範囲が違う)か、分解に漏れがあります。この確認を省くと、ツリーの上と下が実はつながっていない、ということが起きます。
KPIツリーの作り方:七つの手順
具体的な作り方を、手順に沿って説明します。
- KGIを一つ決める。期間と定義を明確にする(例:今年度の売上、月末時点の有料会員数)。
- KGIを、掛け算か足し算で二〜三個の要素に分解する。業種ごとの基本の型(後述)を参考にする。
- 各要素をさらに分解する。分解のたびに、掛け算か足し算かを明記する。
- 担当者が自分の行動で直接動かせる指標にたどり着いたら、その枝の分解を止める。
- 各指標に、現在の実績値を入れる。取れない指標は、取れるようにするか、近い指標で代用する。
- 下の数字から上の数字が計算で再現できるか確かめる。
- 改善の余地と事業への影響が大きい枝を選び、重点的に追う指標を二〜四個に絞る。
手順4の「担当者が動かせる指標」かどうかは、「この数字を上げるために、担当者は明日何をするか」を問うと判断できます。答えが具体的に出てくるなら、行動の指標です。「成約率を上げる」では行動が曖昧なので、「提案書を送った後、三日以内に連絡する件数」「初回の打ち合わせで課題を聞き取る項目の数」のように、もう一段分解できないかを考えます。
手順7では、すべての指標を同じように追おうとしないことが大切です。指標が多すぎると、どれも中途半端にしか見られなくなります。重点の指標を絞り込む考え方はKPI設定でよくある失敗:追えない・動かせない指標を避ける方法でも扱っています。
関係者と一緒に作る
KPIツリーを企画担当や経営層だけで作ると、現場の実態に合わない分解になったり、現場が自分ごととして受け止めなかったりします。作る過程に、各部署の担当者を巻き込むことが大切です。
進め方としては、まず企画担当が上の二〜三段を作り、たたき台を用意します。そのうえで、各部署の担当者と一緒に、自分の担当の枝の下の方を分解する場を設けます。営業担当なら商談数や受注率の下を、マーケティング担当なら訪問者数や登録率の下を、サポート担当なら解約率の下を分解してもらいます。現場の担当者は、どの行動が数字に効いているのかについて、経験に基づく仮説を持っています。その仮説をツリーに反映させることで、実際に使える行動の指標が見つかります。
この場では、出てきた行動の指標がすべて正しいかどうかを議論しすぎないことがコツです。行動の指標と結果の指標の関係は、運用しながら検証していくものです。まずは仮説として置き、一定期間の数字で確かめる、という合意を取っておけば、議論が長引かずに済みます。
指標の定義書を添える
ツリーの図とあわせて、各指標の定義を一覧にした文書を用意しておきます。記載する項目は、指標の名前、定義(何を数えるか)、計算方法、集計の期間、データの取得元、更新の頻度、担当者です。たとえば「有料化率」なら、分母は無料登録者のうち無料期間が終わった人か、その月に登録した人か、で値が変わります。定義を文書にしておかないと、担当者が変わったときや、部署ごとに集計したときに数字が合わなくなります。
業種別の分解の型
事業の形によって、ツリーの上の方の分解には典型的な型があります。最初の数段はこの型を使い、下の方を自社の業務に合わせて分解すると、作りやすくなります。
EC・小売の型
売上を「訪問者数 × 購入率 × 客単価」に分けるのが基本です。訪問者数は流入経路ごとに足し算で分け、購入率は商品ページへの到達率、カートへの追加率、購入完了率と段階ごとに掛け算で分けます。客単価は「一品あたりの単価 × 一回あたりの購入点数」に分けます。既存顧客の売上を別の枝として、「既存顧客数 × リピート率 × 客単価」で見ることもあります。詳しくはECサイトのKPI設計:売上を客数・CVR・客単価に分解して改善するで解説しています。
SaaS・サブスクリプションの型
月の継続収益(MRR)を、「新規獲得分 + 既存顧客の増額分 − 解約分 − 既存顧客の減額分」で足し算に分けるのが基本です。新規獲得分は「商談数 × 受注率 × 一件あたりの月額」、解約分は「既存顧客数 × 解約率 × 一件あたりの月額」と掛け算で分けます。SaaSでは解約の枝の影響が大きいため、解約率をさらに利用状況の指標につなげて分解することが重要です。
BtoBの営業型
受注金額を「商談数 × 受注率 × 平均受注単価」に分け、商談数を「リード数 × 商談化率」、リード数を経路ごとの足し算に分けます。営業担当の行動の指標としては、架電数、訪問数、提案書の提出数などが下に来ます。
BtoBの営業では、商談から受注までの期間が長いため、今月の行動が受注金額に表れるのは数か月後になることがあります。そのため、受注率の下に「提案まで進んだ商談の割合」「決裁者と面談できた商談の割合」など、商談の途中の段階を示す指標を置くと、受注を待たずに改善の手応えを確かめられます。平均受注単価も、提案する商品やプランの組み合わせで分解できる場合は、もう一段下まで分けておくと、単価を上げるための行動が見えやすくなります。
店舗・サービス業の型
売上を「来店客数 × 客単価」に分け、来店客数を「新規 + 再来店」、再来店を「既存顧客数 × 再来店率」に分けます。客単価は「メニューの単価 × 追加注文の数」などに分けます。
架空の例:会員制オンライン講座のKPIツリー
月額制のオンライン講座を運営する事業を例に、ツリーを作ってみます。KGIは「年度末の月間の継続収益」とします。
まず、継続収益を「有料会員数 × 平均月額」に掛け算で分けます。平均月額はプランの構成でほぼ決まるため、主な改善の対象は有料会員数です。有料会員数は「前月の有料会員数 + 新規の有料会員 − 解約した会員」に足し算で分けます。
新規の有料会員は「無料登録者数 × 有料化率」に分けます。無料登録者数は「講座の紹介ページの訪問者数 × 登録率」、訪問者数は検索、広告、紹介の経路ごとに足し算で分けます。有料化率は、無料期間中に「最初の講座を最後まで視聴した人の割合」と強く関係していそうだ、という仮説が立ちました。そこで、有料化率の下に「初回講座の完了率」を置き、その下に「登録の翌日までに案内のメールを開いた人の割合」を置きました。これはマーケティング担当がメールの内容と送信のタイミングで動かせる指標です。
解約した会員は「有料会員数 × 解約率」に分け、解約率の下に「直近二週間で一度も視聴していない会員の割合」を置きました。これはサポート担当が、視聴が止まった会員への連絡で動かせる指標です。
実績を入れてみると、訪問者数と登録率は計画どおりでしたが、有料化率と解約率が計画を下回っていました。そこで重点の指標を「初回講座の完了率」と「二週間視聴なしの会員の割合」の二つに絞り、週次で追うことにしました。
分解でよくある間違いと避け方
上下が計算でつながっていない
「売上」の下に「顧客満足度」や「ブランド認知」を置くなど、計算でつながらない指標を混ぜると、ツリーの意味が薄れます。こうした指標が大切であれば、計算でつながる指標の下に「影響を与えると考えられる要因」として別に書き、計算の枝とは区別します。
分解の途中で止めてしまう
「成約率」や「解約率」で分解を止めると、担当者は何をすればよいか分からないままになります。率の指標は結果の指標であることが多いため、その率を動かす行動の指標まで分解を続けます。結果の指標と行動の指標の関係は先行指標と遅行指標の違い:成果を予測できるKPIの選び方で詳しく解説しています。
漏れや重なりがある
足し算の分解で、ある経路が抜けていたり、二つの経路で同じ顧客を数えていたりすると、合計が上の数字と合わなくなります。分解したら、合計を実績で確かめます。
定義がそろっていない
部署によって「顧客」の定義が違う(契約した会社か、利用している個人か)、「月」の区切りが違う、といった状態では、数字を掛け合わせても上の数字が再現できません。指標ごとに、定義と計算方法、データの取得元を一覧にしておきます。
全部の枝を同じように追う
ツリーを作ると、全部の指標を毎週追いたくなりますが、手間がかかるうえに重点がぼやけます。重点の指標は二〜四個に絞り、それ以外は月に一度確認する程度にします。
ツリーの見せ方を工夫する
完成したツリーは、関係者全員が見られる場所に置きます。図の各指標には、現在の実績値と目標値、前月からの変化の方向を書き添え、重点の指標は色や太字で目立たせます。会議の資料にツリーの図をそのまま載せ、どの枝の話をしているのかを示しながら議論すると、参加者の理解がそろいやすくなります。
作ったKPIツリーを使い続けるには
KPIツリーは、作って終わりにすると数か月で使われなくなります。使い続けるための工夫を三つ紹介します。
一つ目は、定例の会議でツリーを使うことです。週次や月次の会議で、重点の指標の実績を確認し、計画との差がある場合は、ツリーを下にたどって原因を探します。会議の進め方はKPIを使った定例会議の進め方:数字を行動に変える運用の型で解説しています。
二つ目は、数字の更新を自動化することです。指標の数字を毎回手作業で集めていると、担当者の負担になり、更新が滞ります。データの取得元から自動で集計し、ツリーの形で見られるダッシュボードを用意すると、会議の準備が楽になります。
三つ目は、定期的にツリーを見直すことです。事業の段階が変われば、重点の枝も変わります。新規獲得が課題だった時期と、解約が課題になった時期では、追うべき指標が違います。四半期に一度、重点の指標が今の課題に合っているかを確認します。各指標の目標値の決め方はKPIの目標値の決め方:過去実績・逆算・外部基準の使い分けを参考にしてください。
KPIツリー作成のチェックリスト
- KGIの期間と定義を明確にしたか
- 分解のたびに、掛け算か足し算かを明記したか
- 下の要素の実績から、上の数字が計算で再現できることを確かめたか
- 各枝の一番下が、担当者が行動で動かせる指標になっているか
- 足し算の分解に、漏れや重なりがないか
- 指標ごとの定義、計算方法、データの取得元を一覧にしたか
- 各指標の実績値を入れたか。取れない指標の代わりを決めたか
- 重点の指標を二〜四個に絞ったか
- 各重点の指標に担当者が決まっているか
- 定例の会議でツリーを使う流れを決めたか
- ツリーを見直す時期を決めたか
よくある質問
Q. KPIツリーはどのツールで作ればよいですか?
最初は、表計算ソフトやホワイトボード、図を描けるツールで十分です。大切なのは道具ではなく、分解の正しさと、実績の数字が入っていることです。運用が定着し、数字の更新が負担になってきたら、BIツールやダッシュボードで自動的に更新される形に移すことを検討します。
Q. KGIが複数ある場合はどうすればよいですか?
売上と利益のように複数のKGIがある場合は、それぞれにツリーを作るか、利益を「売上 − 費用」に分解して一つのツリーにまとめる方法があります。ただし、ツリーが大きくなりすぎると使いにくくなるため、まずは最も重要なKGIを一つ選んで作り、慣れてから広げるのがおすすめです。
Q. 一番下の行動指標が、上の数字に本当に効いているか分かりません。
行動の指標とその上の結果の指標の関係は、最初は仮説です。一定期間、両方の数字を記録し、行動の指標が動いたときに結果の指標も動いているかを確認します。関係が見られなければ、行動の指標を入れ替えます。ツリーは一度作って固定するものではなく、仮説を検証しながら育てるものと考えてください。
Q. 部署ごとに別々のツリーを作ってもよいですか?
部署ごとのツリーを作ること自体は問題ありませんが、全社のKGIからつながる一本のツリーの一部として位置づけることが大切です。部署ごとにばらばらに作ると、ある部署の指標の改善が、別の部署の指標を悪化させる、という衝突が見えなくなります。
Otsumuに相談できること
KGIが明確で、各指標のデータが取れる状態にあり、事業の構造が比較的シンプルであれば、この記事の手順に沿って自社でKPIツリーを作ることは十分可能です。まずは表計算ソフトで分解し、実績を入れて上下のつながりを確かめるところから始めてみてください。
一方で、分解の途中で行動の指標にうまくたどり着けない、必要なデータが複数のシステムに散らばっていて集計できない、ツリーを作ったものの会議で使われず改善につながっていない、といった場合は、外部の視点を入れることで前に進みやすくなることがあります。
Otsumuでは、KGIの整理とKPIツリーの設計から、重点の指標の選定、データの集計とダッシュボードの整備、定例会議での運用の定着までを一貫して支援しています。自らも事業を運営する立場から、現場が実際に動かせる指標に落とし込むことを重視しています。詳しくはKPI改善コンサルティングやダッシュボード開発のページをご覧ください。
作りかけのツリーの見直しや、どの指標を重点にすべきかの相談だけでも歓迎しています。30分の無料相談からお気軽にご連絡ください。
この記事について
Otsumu株式会社が執筆しました。統計値や他社の事例には依拠せず、進め方と判断の枠組みを中心にまとめています。法務・税務・会計などの制度は、専門家や公的窓口で最新の情報をご確認ください。
執筆:Otsumu株式会社 / 編集日 2026.10.01